この夏、親父がホスピスに入院した。サンドカフェから車で5分の小さな漁港近くのクリニック。
いろいろな木々が植えられた中庭を囲みホスピスの病棟がある。広いデッキが張られ、風に木々が揺れ、海鳴りも聞こえる。
数日前、病院の方々が小さな花火大会を開いてくれた。
大きなガラス戸を開け、そのままキャンドルが灯されたデッキにベッドが移動できた。他の病室の患者さんもベッドに寝たままデッキに出て花火を楽しんだ。
和気あいあいにスタッフの皆さんが上げてくれる花火を見ていると、急に親父がビールが飲みたいと言った。院長先生に快諾してもらい親父と先生は一番小さな缶ビールで乾杯した。
3ヶ月振りだというビールを一口飲むと親父は「あーッ、ウマイ!」とつぶやいた。
それはビールの味では無く、その夜の気分がそう言わせたに違いない。
忘れえぬ夏の一夜。