ホスピスに一ヶ月近く入院していた親父は、信じられない気力で二つの望みを叶えた。
一つは、お世話になっている先生や看護師の方々にサンドカフェでカレーとコーヒーを振舞うことだった。もちろん自分も何口か食した。
二つ目は、自宅に帰り最後の展覧会の油絵を選ぶことだった。只、それを理由にどうしても生まれ育った自宅を味わいたかったのだと思う。
どちらも酸素吸入機を付け、車椅子で短時間の外出だったが、あまりハッキリ話すことの出来ない父親は両手で丸のサインを作り満足そうだった。
その日から程なく親父は逝った。本当に「良き人生」を過ごした人だった。
通夜、告別式、納骨と私は喪主としてバタバタと過ごした。
そして誰もがそうである様に、葬儀を終えた私の心はポッカリと風穴が開いた様な空虚さに襲われている。